様相論理: 可能世界意味論(1階述語論理)

公開日: 2023/11/05


この記事では、様相論理の 可能世界意味論(possible world semantics) を1階述語論理に拡張する方法を紹介する(命題論理バージョンはこちら)。

非形式的な説明

様相論理と述語論理を組み合わせた 様相述語論理(modal predicate logic) を扱う際に問題になるのは、量化の範囲の扱い である。例えば、全称量化$\forall x.Px$が状態$w$で真になる条件を非形式的に考えてみよう。

  • 任意の$d\in {?}$について、$d$$w$において$P$を満たす。

このとき$?$の部分が量化の範囲(領域)にあたるわけだが、この領域を状態ごとに同じものにするか、異なるものにするかで、意味論を定義する方法が複数ありうる。 このページでは、まず簡単な定式化として領域$D$を全ての状態$w$で同一にする定義を紹介し、次にそれを発展させる2つの方法を紹介する。

さて、どのような定式化が適切かを議論するために、ここでは 自然言語における量化や様相の扱われ方 に注目する。 すなわち、形式的に定義された意味論がどのような推論を妥当と予測するかを調べて、その予測が実際の自然言語における推論の振る舞いと一致するかどうかを観察することによって、意味論を比較することにしよう。 逆に、「可能世界における存在者とは何か」といった形而上学的な問いには立ち入らないことに注意されたい。

定義

以下では、1階述語論理の言語$\L$と変数記号の加算無限集合$\Var$があらかじめ与えられているものとする^equality。ただし、定数記号は0変数の関数記号、命題変数は0変数の述語記号であると見なす。

項と原子論理式は通常通り定める。また、論理式の集合$\Fml$を以下のように帰納的に定める。

  • $\vphi$が原子論理式ならば、$\vphi\in\Fml$
  • $\vphi,\psi\in\Fml$ならば、$\lnot\vphi,\vphi\to\psi,\Box\vphi\in\Fml$
  • $x\in\Var, \vphi\in\Fml$ならば、$\forall x.\vphi\in\Fml$

また、略記として以下を用いる。

  • $\vphi\land\psi\defeq \lnot(\vphi\to\lnot\psi)$, $\vphi\lor\psi\defeq\lnot\vphi\to\psi$
  • $\Diamond\vphi\defeq\lnot\Box\lnot\vphi$
  • $\exists x.\vphi\defeq \lnot\forall x.\lnot\vphi$

定領域意味論

まずは様相命題論理の場合の拡張として、単一の領域を付け足す 定領域意味論(constant domain semantics) を紹介する。

定義. 定領域モデル

定領域フレーム(constant domain frame) を、以下から成る組$\tuple{W,R,D}$のこととする。

  • $W$: 非空な集合
  • $R\sube W\times W$
  • $D$: 非空な集合

また、定領域モデル(constant domain model) を、定領域フレームに以下で定まる 解釈(interpretation) $I$を加えたものとする。

  • $n$項関数記号$f$に対して、$I(f):D^n\to D$
  • $n$項述語記号$P$$w\in W$に対して、$I(w,P)\sube D^n$

まず述語記号については、何がどのような性質・関係を持つかは状況に応じて変わる以上、解釈の定義を$I(w,P)$と世界$w$に依存したものにするのは自然であろう。

一方で、関数記号の解釈が$w$に依存しない点については、典型的な例として定数記号(0項関数記号)を考えるとよい。定数記号は自然言語でいう 固有名(proper name) に相当し、状況によらず同一の人物・対象を指すと分析されることが多い。例えば「もし京都が現在の日本の首都であったら...」と考える場合、私たちは「現実世界と同じ京都という対象が、日本の首都という性質を持っている仮想的な状況」について考えているはずである。このように可能世界に依存せず解釈が決まる表現を 固定指示子(rigid designator) という。固有名を固定指示子とはしない分析も存在するが、ここではこれ以上深入りしない。

次に、モデルの各状態における論理式の真偽を定義する。そのために、自由変数に対して領域上の対象を割り当てる関数を定義する。

定義. 割り当て・値

領域$D$上の 割り当て(assignment)$\Var$から$D$への関数とする。また、割り当て$g$$d\in D$に対して、関数$g[x\mapsto d]:\Var\to D$を以下のように定義する。

$$ g[x\mapsto d] (v) \defeq \begin{cases} d&(\If v=x)\\ g(v)&(\Otherwise) \end{cases} $$

$D$上の割り当て$g$による項$t$値(value) $\intpr{t}_{g}\in D$を、項の構成に関する帰納法で以下のように定める。

  • $x\in\Var$: $\intpr{x}_{g}\defeq g(x)$
  • $\intpr{ft_1\ldots t_n}_{g}\defeq (I(f))(\intpr{t_1}_{g},\ldots,\intpr{t_n}_{g})$
定義. 充足関係

モデル$\M=\tuple{W,R,D,I}$と状態$w\in W$、および$D$上の割り当て$g$に対して、論理式$\vphi$の充足関係$\M,w\vDash_g\vphi$を以下のように帰納的に定める。

  • 原子論理式:$\M,w\vDash_g Pt_1\ldots t_n\defiff \tuple{\intpr{t_1}_{g},\ldots,\intpr{t_n}_{g}}\in I(w,P)$
  • $\M,w\vDash_g\lnot\vphi\defiff \M,w\nvDash_g\vphi$
  • $\M,w\vDash_g\vphi\to\psi\defiff \M,w\vDash_g\vphi\implies\M,w\vDash_g\psi$
  • $\M,w\vDash_g\Box\vphi\defiff \Forall w'\in W.wRw'\implies\M,w'\vDash_g\vphi$
  • $\M,w\vDash_g\forall x.\vphi\defiff \Forall d\in D.~\M,w\vDash_{g[x\mapsto d]}\vphi$

このとき($\M$において)状態$w$と割り当て$g$のもとで$\vphi$が真であるという。モデルが明らかな場合は$\M$を省略して$w\vDash_g\vphi$と書く。

略記として定義された可能性演算子・存在量化の場合の条件を書き下すと、次のようになる。

  • $\M,w\vDash_g\Diamond\vphi\iff \Exists w'\in W.wRw'\And\M,w'\vDash_g\vphi$
  • $\M,w\vDash_g\exists x.\vphi\iff \Exists d\in D.~\M,w\vDash_{g[x\mapsto d]}\vphi$

推論の妥当性の定義は、命題論理の場合と同様である。

定義. 妥当性

$\Gamma\cup\qty{\vphi}\sube\Fml$とする。$\Gamma$から$\vphi$への推論が 妥当である(valid) ことを、任意のモデル$\M=\tuple{W,R,D,I}$、状態$w\in W$$D$上の割り当て$g$に対して「任意の$\psi\in\Gamma$に対して$w\vDash_g\psi$ならば、$w\vDash_g\vphi$である」ことと定義する。このことを$\Gamma\vDash\vphi$と書く。

可変領域意味論

定領域意味論における領域$D$を可能世界ごとに別々にすることで得られるのが、可変領域意味論(variable domain semantics) である。

定義. 可変領域モデル

可変領域フレーム(variable domain frame) を、以下から成る組$\tuple{W,R,D,\delta}$のこととする。

  • $W$: 非空な集合
  • $R\sube W\times W$
  • $D$: 非空な集合
  • $\delta:W\to\mathcal{P}(D)$ (ただし各$\delta(w)$は非空)
    • 以下では$\delta(w)$$D_w$と略記する1

また、可変領域モデル(variable domain model) を、可変領域フレームに定領域モデルの場合と同じ解釈$I$を加えたものとする2

割り当て等の定義は可変領域の場合と全く同じである。充足関係については、量化が関わる場合の条件が次のようになる。

  • $\M,w\vDash_g\forall x.\vphi\defiff \Forall d\in D_w.~\M,w\vDash_{g[x\mapsto d]}\vphi$
  • $\M,w\vDash_g\exists x.\vphi\iff \Exists d\in D_w.~\M,w\vDash_{g[x\mapsto d]}\vphi$

推論の妥当性も同様に定まる。定領域モデル・可変領域モデルの違いを明示する場合は、それぞれ$\Gamma\vDash_\CD\vphi$, $\Gamma\vDash_\VD\vphi$と書くこととする。

自由論理

定領域意味論を拡張する方法として、自由論理という体系に基づくアプローチがある。自由論理は、通常の述語論理に存在を表すための特別な1項述語$\Ex$を追加した体系 である。この述語を 存在述語(existence predicate) という。

自由論理に基づく意味論では、いわゆる存在量化子はもはや「存在」を表さない。なぜなら、量化の範囲$D$がその世界では存在しない対象を含む可能性がある からである(すなわち、$I(w,\Ex)\subsetneq D$かもしれない)。 このように非存在対象への量化を許容する立場のことを、非存在主義(noneism) という3

非存在主義のもとでは、$\exists x.\vphi$が表すのは「ある$x$について$\vphi$である($\vphi$ holds for some $x$)」ということである4。 このように量化の対象となる実体の存在性を含意しない量化子は、 外的量化子(outer quantifier) と呼ばれる。 分かりやすさのために、外的量化子にはこれまでと異なる記号$\Some$を使うように言語を拡張することとしよう(それに合わせて、$\forall$に対して記号$\All$を使う)。以下に充足関係の定義を述べる。

定義. 外的量化子
  • $w\vDash_g\All x.\vphi\defiff \Forall d\in D.w\vDash_{g[x:=d]}\vphi$
  • $w\vDash_g\Some x.\vphi\defiff \Exists d\in D.w\vDash_{g[x:=d]}\vphi$

一方で、存在の意味を含む量化子も、外的量化子と存在述語を用いて定義することができる。これらを 内的量化子(inner quantifier) という。

定義. 内的量化子
  • $\forall x.\vphi\defeq\All x.\Ex x\to\vphi$
  • $\exists x.\vphi\defeq \Some x.\Ex x\land\vphi$

各意味論の比較

以下では、ここまでに定義した各意味論を、自然言語の量化・様相表現の振る舞いを捉えられているかという観点から比較しよう。 結論から先に言うと、3つのどの意味論にも何かしら問題がある。

否定存在言明の問題

まず、定領域意味論は大きな問題に直面する。それは「(この世界で)○○は存在しない」という 否定存在言明(negative existential statement) が真になりえないというものである。

問題の概略を掴むために、通常の(存在述語のない)1階述語論理で考えてみよう。否定存在言明「$t$は存在しない」は、論理式$\lnot\exists x.x=t$に翻訳するのが自然なように思われる。しかし、任意の項$t$に対して領域の元$\intpr{t}_g\in D$が存在するので、$\exists x.x=t$は自明に真になってしまう。すなわち、「ツチノコは存在しない」「東京特許許可局は存在しない」などが現実世界の状況によらず偽ということになってしまうが、これは私たちの直観に反する。

同様の問題が、定領域意味論で発生する。すなわち、任意の項$t$について、$\lnot\exists x.x=t$は不可能である。

命題.
$$ \vDash_\CD\Box\exists x.x=t $$

定領域モデル$\M=\tuple{W,R,D,I}$とその状態$w\in W$を任意にとる(割り当て$g$は任意でよい)。$wRw'$となる$w'\in W$を任意にとると、$\intpr{t}_{g}\in D$より、$w'\vDash_{g[x\mapsto\intpr{t}_g]}x=t$である。このような$D$の元の存在により、$w'\vDash_g\exists x.x=t$である。$w'$の任意性より、$w\vDash\Box\exists x.x=t$が成り立つ。

一方で、可変領域意味論の場合は問題はない。ある世界の領域に$\intpr{t}_g$が入っていないようなモデルを構成することで、$\nvDash_\VD \Box\exists x.x=t$を示すことができる。また、自由論理に基づく意味論の場合は、存在述語を使って否定存在言明を$\lnot\Ex t$と翻訳すればよい。

存在汎化の問題

可変領域意味論の問題になる量化の振る舞いとして、以下のような推論を見てみよう。

  • 花子が満点を取った、かつ、花子は学生である。$\vDash$ ある学生が満点を取った。

これは形式的には$Pa\land Qa\vDash \exists x.Px\land Qx$と書けて、通常の1階述語論理では妥当になる。このように$\vphi[x:=t]\vDash\exists x.\vphi$の形式を持つ推論は、 存在汎化(existential generalization) と呼ばれる。

さて、名前からするとやや紛らわしいのだが、存在汎化の妥当性は、量化される対象が存在するか否かに依存していないこと に注意しよう。例として以下の2つを比べてみると、前者は妥当であり、後者は妥当ではないように思われる。

  • (a) 花子はツチノコを探した、かつ、ツチノコは未確認生物である。$\vDash$ 花子はある未確認生物を探した。
  • (b) 花子はツチノコを探した、かつ、ツチノコは未確認生物である。$\nvDash$ 花子が探した未確認生物が存在する。

(b)が非妥当性になることは、「単に探されたというだけでは存在しているということにはならない」とインフォーマルに説明できるだろう。


では、各意味論で存在汎化がどうなるかを確認しよう。まず、可変領域意味論では存在汎化は妥当にならない。 その理由をざっくり言えば、量化子が存在を含意してしまうため、上の(a)の結論部のような「(存在しないかもしれない)ある○○について...」という命題が表現できないからである。

命題.
$$ \vphi[x:=t]\nvDash_\mathbf{VD}\exists x.\vphi $$

非妥当性を示す例として$Pc\nvDash_\mathbf{VD} \exists x.Px$を考える($P$は1項述語記号、$c$は定数記号)。以下の反例モデル$\M=\tuple{W,R,D,\delta,I}$を考える(解釈$g$は任意でよい)。

  • $W=\qty{w_0}$
  • $R=\varnothing$
  • $D=\qty{d_0,d_1}$
  • $D_{w_0}=\qty{d_0}$
  • $I(c)=d_1,I(w_0,P)=\qty{d_1}$ (その他の場合は任意でよい)

このとき、$w_0\vDash_g Pc$である。一方で、任意の$d\in D_{w_0}$について$w_0\nvDash_{g[x\mapsto d]} Px$なので($d_0$だけ考えればよい)、$w_0\nvDash_g \exists x.Px$である。よってこの$\M$が反例モデルとなる。

一方で、自由論理に基づく場合、上の2つの推論は外的量化子・内的量化子によって区別できる。

命題.
  • $\vphi[x:=t]\vDash_\mathbf{FL}\Some x.\vphi$
  • $\vphi[x:=t]\nvDash_\mathbf{FL}\exists x.\vphi$

内的量化子の場合の非妥当性は、$\VD$の場合と全く同様に示せる。

外的量化子の場合について、モデル$\M=\tuple{W,R,D,I}$$w\in W$, および$D$上の割り当て$g$を任意にとり、$w\vDash\vphi[x:=t]$を仮定する。 ここで、以下の性質を用いる(証明は論理式の構造に関する帰納法による)。

補題. 代入の可換性
$$ \M,w\vDash_g\vphi[x:=t] \iff \M,w\vDash_{g\left[x\mapsto\intpr{t}_g\right]}\vphi $$

代入の可換性と仮定より、$\intpr{t}_g\in D$について、$w\vDash_{g\left[x\mapsto\intpr{t}_g\right]}\vphi$が成り立つ。 このような$D$の元の存在により、$w\vDash\Some x.\vphi$が示された。

バーカン式・逆バーカン式

様相述語論理において議論の対象となってきた論理式として、以下の2つがある。

  • バーカン式(Barcan formula): $(\forall x.\Box\vphi)\to(\Box\forall x.\vphi)$ (or $(\Diamond\exists x.\vphi)\to(\exists x.\Diamond\vphi)$)
  • 逆バーカン式(converse Barcan formula): $(\Box\forall x.\vphi)\to(\forall x.\Box\vphi)$ (or $(\exists x.\Diamond\vphi)\to(\Diamond\exists x.\vphi)$)

自然言語に当てはめて考えると、バーカン式は直観に反することが分かる。$\Diamond$$\exists$を使った以下の例を考えよう。

  • (1) 満点を取る学生がいるかもしれない。($\Diamond\exists x.Px$)
  • (2) 満点を取るかもしれない学生がいる。($\exists x.\Diamond Px$)

(2)ははっきりとある学生の存在を言っているy点で、(1)よりも主張として強いようにように思われる。すなわち、(1)から(2)を推論するのは難しそうである。なお、自然な日本語はやや作りにくいが、外的量化子に相当する文章に変えても推論の非妥当性は変わらない。

  • (1') ある学生が満点をとる、ということがあるかもしれない。($\Diamond\Some x.Px$)
  • (2') ある学生について、その人が満点をとるかもしれない。($\Some x.\Diamond Px$)

逆バーカン式は、バーカン式ほど問題含みには思われないが、様相演算子の解釈によっては妥当ではなくなる可能性がある。例えば、$\Box\vphi$を「(話し手が)$\vphi$であることを恐れている」と解釈して5、次のような例を考えよう。

  • (3) 私は皆が私を嫌うことを恐れている。($\Box\forall x. Px$)
  • (4) どの人についても、私はその人が私を嫌うことを恐れている。($\forall x.\Box Px$)

話し手はある特定の誰かが自分を嫌う分には構わないが、皆が自分を嫌うということは恐れている、ということがありうるだろう。このような状況では、(3)は真だが(4)は偽になる。このことを考慮すると、逆バーカン式を常に妥当にしてしまうことも問題である。


では、形式体系の話に戻ろう。まず、バーカン式・逆バーカン式の妥当性は、フレームが持つ特定の性質によって特徴づけることができる。

定義. 領域増大・領域減少モデル

可変領域フレーム$\F=\tuple{W,R,D,\delta}$について

  • $\F$領域増大フレーム(domain-increasing frame) である$\defiff\Forall w,w'\in W.wRw'\implies D_w\sube D_{w'}$
  • $\F$領域減少フレーム(domain-decreasing frame) である$\defiff\Forall w,w'\in W.wRw'\implies D_{w'}\sube D_{w}$
命題. フレームの性質と論理式の対応

可変領域フレーム$\F=\tuple{W,R,D,\delta}$について

  • $\F$が領域増大フレームである$\iff \F$上で逆バーカン式が妥当
  • $\F$が領域減少モデルである$\iff\F$上でバーカン式が妥当

領域増大フレームの方についてのみ示す(もう一方も同様)。

まず$(\Rightarrow)$を示すために、$\F$が領域増大フレームであると仮定し、$\F$上の解釈$I$、および$w\in W$と割り当て$g$を任意にとる。このとき、

$$ \begin{align*} & w\vDash_g\Box\forall x.\vphi\\[5pt] \iff{}& \Forall w'\in W.wRw'\implies w'\vDash_g\forall x.\vphi\\[5pt] \iff{}& \Forall w'\in W.wRw'\implies \Forall d'\in D_{w'}.w'\vDash_{g[x\mapsto d']}\vphi\\[5pt] \implies{}& \Forall d\in D_{w}.\Forall w'\in W.wRw'\implies w'\vDash_{g[x\mapsto d]}\vphi \quad (\because\text{仮定})\\[5pt] \iff{}& \Forall d\in D_{w}.w\vDash_g \Box\vphi\\[5pt] \iff{}& w\vDash_g \forall x.\Box\vphi\\[5pt] \end{align*} $$

次に$(\Leftarrow)$を、対偶をとることによって示す。$\F$が領域増大フレームではないと仮定すると、ある$w_1,w_2\in W$が存在して、

  • (a) $w_1Rw_2$
  • (b) ある$d_1\in D_{w_1}$が存在して$d_1\notin D_{w_2}$

このとき、1項述語記号$P$を1つとって固定し(任意でよい)、解釈$I$を以下のように定める。

  • $w\in W$に対して、$I(w,P)=D_{w}$ (他の記号の解釈は何でもよい)

また、割り当て$g$を1つとる(任意でよい)。すると、

  1. $w_1\vDash_g\Box\forall x.Px$である。
    $$ \begin{align*} &\Forall w\in W.\Forall d\in D_w. w\vDash_{g[x\mapsto d]} Px \quad(\because\text{$I$の定義})\\ \iff{}&\Forall w\in W.w\vDash\forall x.Px\\ \implies{}&\Forall w\in W.w_1Rw\implies w\vDash\forall x.Px\\ \iff{}& w_1\vDash\Box\forall x.Px \end{align*} $$
  2. $w_1\nvDash_g\forall x.\Box Px$である。
    $$ \begin{align*} &w_2\nvDash_{g[x\mapsto d_1]} Px \quad(\because\text{仮定(b), $I$の定義})\\ \implies{}& \Exists d\in D_{w_1}.\Exists w\in W.w_1R w\And w\nvDash_{g[x\mapsto d]} Px \quad(\because\text{仮定(a)})\\ \iff{}& \Exists d\in D_{w_1}. w_1\nvDash_{g[x\mapsto d]} \Box Px\\ \iff{}& w_1\nvDash_g \forall x.\Box Px \end{align*} $$

以上(1),(2)より$w_1\nvDash_g (\Box\forall x.Px)\to(\forall x.\Box Px)$となるから、$\F$上でこの逆バーカン式は妥当ではない。

さて、定領域モデルは、世界の間で領域が増えも減りもしない可変領域モデルと見なすことができる。よって上の命題の証明とほとんど同様にして、定領域意味論ではバーカン式・逆バーカン式がともに妥当になることが示せる。一方で、可変領域意味論では、フレームに制約を設けない限り、この問題は起こらない。

自由論理に基づく意味論についても議論は同じである。すなわち、内的量化$\exists,\forall$については、(可変領域意味論と同様に)バーカン式・逆バーカン式が妥当にならないが、外的量化$\Some,\All$については、(定領域意味論と同様に)2つの式は妥当になってしまう。ということで、この意味論においても部分的に問題が残ることとなる。

参考文献

  • Gamut, L. T. F. (2020). Logic, Language, and Meaning, Volume 2: intensional logic and logical grammar. University of Chicago Press.
  • Priest, G. (2008). An introduction to non-classical logic: From if to is. Cambridge University Press.
  • 飯田 隆. (1995). 『言語哲学大全 III: 意味と様相(下)』. 勁草書房.
  • グレアム・プリースト. (訳: 久木田 水生, 藤川 直也). (2011). 『存在しないものに向かって: 志向性の論理と形而上学』. 勁草書房

Footnotes

  1. 集合族$(D_w)_{w\in W}$を先に準備し、$D=\bigcup_{w\in W}D_w$と定義することもある。ただしこの場合、今回の定義よりも制約が強くなることに注意しよう。例えば任意の定数記号$c$に対して、$I(c)\in\bigcup_{w\in W}D_w$より、ある$w\in W$が存在して$I(c)\in D_w$が成り立つ。すなわち、「任意の名前についてその指示対象が存在するような世界がある」という存在論的な仮定を置くことになる。
  2. 述語記号の解釈は世界$w$に依存する以上、$I(w,P)\sube (D_w)^n$のように、述語の解釈の範囲を$w$で存在する対象に制限してもよいように思われるかもしれないが、これは適切ではない。例えば「$x$$y$を欲する/怖がる/憧れる」といった関係では、$y$はこの世界に存在しない対象かもしれない。もちろん「$x$$y$を触る/蹴る/持ち上げる」といった場合は$y$が存在する対象でなければならないが、これは結局のところ個別の関係の性質によるものであって、論理の側で一般に制約を設ける必要はない(少なくともここではそのように考える)。
  3. この立場は、W.V.O.クワインによる「存在とは変数記号の値となることである」というテーゼと対立することになる。
  4. 日本語では「ある$x$」と表現することになるが、この「ある(或る)」は存在を表す動詞の「有る」とは異なることに注意。
  5. 「望む・欲する・恐れる」といった主体の態度を示す様相をvolitive modalityという(定訳が見つからなかった)。