様相論理: 可能世界意味論(命題論理)
公開日: 2023/11/03
この記事では、様相論理(modal logic)、およびその 可能世界意味論(possible world semantics) を紹介する。
非形式的な説明
通常の論理学では、命題の真偽、すなわち、ある命題が成り立つか否かが議論の対象になる。しかしながら、私たちの使う自然言語には、命題がどのように成り立つかの様子を表す表現がある。このような命題の成り立ち方のことを 様相(modality) という。様相を表す表現として、例えば以下のようなものが考えられる。
- "必然性"を表す表現:「$A$であるに違いない」「必ず$A$だ」「$A$でなければならない」
- "可能性"を表す表現:「$A$かもしれない」「$A$でありうる」「$A$であってもよい」
これらを表すための論理結合子 (様相演算子(modal operator)) を導入して通常の論理を拡張した体系が、このページのテーマである 様相論理(modal logic) である。通例、必然性を表す様相演算子を$\Box$で、可能性を表す様相演算子を$\Diamond$で表す。
さて、様相論理における命題の真偽を考えるには、現実世界に限られない仮想的な状況を考える必要がある。例えば、「日本人のAさんがアメリカ人として生まれていたかもしれない」という命題の真偽は、現実にAさんが日本に生まれたという事実とは無関係である。また、「誰もが法律を守らなければならない」という命題の真偽は、今実際にみんなが法律を守っているかどうかとは関係がない。
このような様相の捉え方を反映するための仕組みが、このページで紹介する 可能世界意味論(possible world semantics) である。可能世界意味論では、論理式の真偽が複数の状態で別々に定義される。そして、様相演算子を持つ論理式の真偽は、別の可能世界における命題の真偽を参照して決まる ことになる。
定義
以下では、命題変数の可算無限集合$\PV$が与えられているものとし、様相論理式の集合$\MFml$を以下のように帰納的に定める。
- $\Forall p\in\PV. p\in\MFml$
- $\vphi,\psi\in\MFml\implies \lnot\vphi, \vphi\to\psi,\Box\vphi\in\MFml$
また略記として、$\vphi\land\psi\defeq \lnot(\vphi\to\lnot\psi)$, $\vphi\lor\psi\defeq\lnot\vphi\to\psi$, $\Diamond\vphi\defeq\lnot\Box\lnot\vphi$を用いる。
モデルと妥当性
まず、論理式の真偽を与えるためのモデルを定義する。
様相論理の フレーム(frame) を、以下から成る組$\tuple{W,R}$のこととする
- $W:$非空な集合
- $R\sube W\times W$
$W$の元のことを 状態(state) ないし 可能世界(possible world) という。$R$のことを 到達可能性関係(accessibility relation) という。
様相論理の モデル(model) を、フレームに以下を追加したもののこととする。
- $v_w:\PV\to\qty{0,1}$となる関数の族$(v_w)_{w\in W}$
各$v_w$のことを 付値(valuation) という。
次に、モデルの各状態において論理式が真になるための条件を、論理式の構造に関する帰納法で定義しよう。
モデル$\M=\tuple{W,R,(v_w)_{w\in W}}$と$w\in W$に対して、論理式$\vphi$の充足関係$\M,w\vDash\vphi$を以下のように帰納的に定める。
- 命題変数:$\M,w\vDash p \defiff v_w(p)=1$
- $\M,w\vDash \lnot\vphi \defiff \M,w\nvDash\vphi$
- $\M,w\vDash \vphi\to\psi \defiff \M,w\vDash\vphi \implies \M,w\vDash\psi$
- $\M,w\vDash \Box\vphi \defiff \Forall w'\in W.wRw'\implies\M,w'\vDash\vphi$
このとき、(モデル$\M$において)状態$w$で論理式$\vphi$は真であるという。モデルが明らかな場合は$\M$を省略して$w\vDash\vphi$と書く。
また、論理式の集合$\Gamma\sube\MFml$に対して、
- $\M,w\vDash \Diamond\varphi \defiff \Exists w'\in W.wRw'\And \M,w'\vDash\vphi$
以下では、フレームを下図のように有向グラフで表し、各状態で論理式が真なら$+$、偽なら$-$を付けて表す。
推論の妥当性を、任意のモデルにおいて前提から結論に充足関係が保存されることとして定義する。
$\Gamma\cup\qty{\vphi}\sube\Fml$とする。$\Gamma$から$\vphi$への推論が 妥当である(valid) ことを、任意のモデル$\M=\tuple{W,R,(v_w)_{w\in W}}$と状態$w\in W$に対して$w\vDash\Gamma$ならば$w\vDash\vphi$であることと定義する。このことを$\Gamma\vDash\vphi$と書く。
なお、前提を真・結論を偽とするような状態が存在するモデルのことを 反例モデル(countermodel) という。すなわち、$\Gamma$から$\vphi$への推論に対する反例モデル$\M=\tuple{W,R,(v_w)_{w\in W}}$は以下を満たす。
拡張
上記の定義のもとでは、以下の形式の論理式が妥当になる。
モデル$\M=\tuple{W,R,v}$と状態$w\in W$を任意にとり、$w\vDash\Box(\vphi\to\psi)$と$w\vDash\Box\vphi$を仮定する。
$w\vDash\Box\psi$を示すために、$wRw'$となる$w'\in W$を任意にとる。仮定より$w'\vDash\vphi\to\psi$と$w'\vDash\vphi$であり、これらより$w'\vDash\psi$である。$w'$の任意性より、$w\vDash\Box\psi$が示された。
しかしながら、様相演算子がこれ以外の(より強い)性質を満たしていてほしいことがある。例えば$\Box\vphi$を「$\vphi$は必然的に真である」と解釈するのであれば、$\Box\vphi\to\vphi$ ($\vphi$が必然的に真ならば、実際に$\vphi$は真である)が成り立ってほしくなる。
このような追加の公理として、慣習的な名前を持つものをいくつか挙げる。
- (D) $\Box\vphi\to\Diamond\vphi$
- (T) $\Box\vphi\to\vphi$
- (4) $\Box\vphi\to\Box\Box\vphi$
- (B) $\vphi\to\Box\Diamond\vphi$
- (5) $\Diamond\vphi\to\Box\Diamond\vphi$
- (.2)あるいは(C) $\Diamond\Box\vphi\to\Box\Diamond\vphi$
- (.3) $\Box(\Box \vphi\to\psi)\lor\Box(\Box \psi\to\vphi)$
- (CD) $\Diamond\vphi\to\Box\vphi$
- (C4) $\Box\Box\vphi\to\Box\vphi$
妥当性$\Gamma\vDash\varphi$の定義においてモデルを公理(X1),...,(Xn)を満たすものに制限して得られる関係を、$\Gamma\vDash_\mathbf{KX_1\ldots X_n}\varphi$で表す。
また、論理$\mathbf{KX_1\ldots X_n}$をその上で妥当な論理式の集合と同一視し、以下のように定義する。
例えば、公理(D)と(4)によって得られる論理を$\mathbf{KD4}$と呼ぶ。また、何も公理を加えない場合の論理$\mathbf{K}$については、明示する必要がなければ$\vDash_\mathbf{K}$ではなく(これまで通り)単に$\vDash$と書く。なお例外的に、$\mathbf{KT4}$は$\mathbf{S4}$と、$\mathbf{KT5}$は$\mathbf{S5}$と呼ばれることが多い。
性質
推論に関する性質
- $\Box$に関するもの
- $\Box(\vphi\land\psi)\iffvDash\Box\vphi\land\Box\psi$
- $\Box(\vphi\lor\psi)\onlyifvDash\Box\varphi\lor\Box\psi$
- $\Diamond$に関するもの
- $\Diamond(\vphi\lor\psi)\iffvDash \Diamond\vphi\lor\Diamond\psi$
- $\Diamond\vphi\land\Diamond\psi\onlyifvDash\Diamond(\vphi\land\psi)$
$\Box(\varphi\lor\psi)\nvDash\Box\vphi\lor\Box\psi$のみ示す。なお、$\Box$の方の妥当性・非妥当性が示せれば、$\Diamond$の方は定義から導出できる。
命題変数$p,q\in\PV$をとって固定し、以下のように反例モデル$\M=\tuple{W,R,(v_w)_{w\in W}}$を定義する。
- $W=\qty{w_0,w_1,w_2}$
- $R=\qty{\tuple{w_0,w_1},\tuple{w_0,w_2}}$
- $v_{w_1}(p)=1,~v_{w_2}(q)=1$ (それ以外の場合、値は$0$)
付値の定義より$w_1\vDash p\lor q,~w_2\vDash p\lor q$となるので、$R$の定義より$w_0\vDash\Box(p\lor q)$である。一方で、$w_1\nvDash q$より$w_0\nvDash\Box q$であり、同様に$w_2\nvDash p$より$w_0\nvDash\Box p$なので、$w_0\nvDash\Box p\lor\Box q$となる。よってこの$\M$が反例モデルを与える。
恒真な論理式については、それに$\Box$を付けたものも恒真になる。
$\vDash\vphi$を仮定すると、任意のモデル$\M$の任意の状態$w$で$w\vDash\vphi$である。改めてモデル$\M$とその状態$w$を任意にとると、$wRw'$となる任意の$w'$において、仮定より$w'\vDash\vphi$なので、$w\vDash\Box\vphi$である。よって$\vDash\Box\vphi$が成り立つ。
対応理論
フレーム$\F$がある性質を持つことが、$\F$のもとである公理が妥当になることの必要十分条件になることがある。
このことを形式的に述べるために、まずフレーム上に制限した妥当性を定義する。
フレーム$\F=\tuple{W,R}$上で$\Gamma$から$\vphi$への推論が妥当であることを、$\F$上の任意の付値を$(v_w)_{w\in W}$としてモデル$\tuple{W,R,(v_w)_{w\in W}}$に関して以下が成り立つことと定義する。
このことを$\Gamma\vDash_\F\vphi$と書く。
次に、代表的なフレームの性質を列挙する。
フレーム$\mathcal{F}=\tuple{W,R}$について、以下のように$\F$の性質を定義する。簡潔さのため、状態に関する全称量化$\Forall w\in W...$を省略する。
- 継続性(seriality): $\Exists w'\in W.wRw'$
- 反射性(reflexitivity): $wRw$
- 推移性(transitivity): $w_1Rw_2\And w_2Rw_3\implies w_1Rw_3$
- 対称性(symmetry): $w_1Rw_2\implies w_2Rw_1$
- ユークリッド性(euclideanity): $w_1Rw_2\And w_1Rw_3 \implies w_2Rw_3$
- 合流性(confluency): $w_1Rw_2\And w_1Rw_3 \implies \Exists w_4\in W.w_2Rw_4\And w_3Rw_4$
- 右収束性(right convergence): $w_1Rw_2\And w_1Rw_3 \implies w_2Rw_3 \Or w_2=w_3 \Or w_3Rw_2$
- 関数性(functionality): $w_1Rw_2\And w_1Rw_3 \implies w_2=w_3$
- 稠密性(density): $w_1Rw_2 \implies \Exists w_3\in W.w_1Rw_3\And w_3Rw_2$
- 普遍性(universality): $wRw'$ (i.e., $R=W^2$)
ここで、次のような対応関係が成り立つ。
- $\F$が継続的$\iff{}\vDash^\F \Box\vphi\to\Diamond\vphi$ (D)
- $\F$が反射的$\iff{}\vDash^\F \Box\vphi\to\vphi$ (T)
- $\F$が推移的$\iff{}\vDash^\F\Box\vphi\to\Box\Box\vphi$ (4)
- $\F$が対称的$\iff{}\vDash^\F\vphi\to\Box\Diamond\vphi$ (B)
- $\F$がユークリッド的$\iff{}\vDash^\F\Diamond\vphi\to\Box\Diamond\vphi$ (5)
- $\F$が合流的$\iff{}\vDash^\F\Diamond\Box\vphi\to\Box\Diamond\vphi$ (.2)
- $\F$が右収束的$\iff{}\vDash^\F\Box(\Box \vphi\to\psi)\lor\Box(\Box \psi\to\vphi)$ (.3)
- $\F$が関数的$\iff{}\vDash^\F\Diamond\vphi\to\Box\vphi$ (CD)
- $\F$が稠密$\iff{}\vDash^\F\Box\Box\vphi\to\Box\vphi$ (C4)
1つ目についてのみ証明を与える。$(\Rarr)$を示すために、$\F~(=\tuple{W,R})$の継続性を仮定する。$\F$上の付値$(v_w)_{w\in W}$と$w\in W$を任意にとり、$w\vDash\Box\vphi$を仮定する。このとき、継続性よりある$w'\in W$が存在して$wRw'$であり、これと仮定より$w'\vDash\vphi$が成り立つ。このような状態$w'$の存在より、$w\vDash\Diamond\vphi$が成り立つ。
次に、$(\Larr)$を対偶をとることで示す。そのために、$\F$が継続的でない、すなわち、ある$w\in W$が存在して、任意の$w'\in W$に対して$wRw'$とはならないと仮定する。このとき、付値$(v_w)_{w\in W}$を1つ、命題変数$p$を1つとると(任意でよい)、仮定より$w\vDash\Box p$かつ$w\nvDash\Diamond p$となるので、$w\nvDash\Box p\to\Diamond p$である。
どのような様相論理の公理にも、対応する(1階述語論理で記述された)フレームの性質が存在する、というわけではない。名前が付いている例として、McCkinseyの公理$\Box\Diamond\vphi\to\Diamond\Box\vphi$やLöbの公理$\Box(\Box\varphi\to\varphi)\to\Box\varphi$がある。少なくとも、Sahlqvist論理式という特定の形式を持つ論理式については、対応するフレームが存在することが分かっている(Sahlqvistの定理)。
同様に、どのような(1階述語論理で記述された)フレームの性質にも、対応する様相論理の公理が存在する、というわけではない。例として$\exists x\in W.xRx$や$\forall x\in W.\lnot xRx$がある。ある特定の代数的条件によって、様相論理の公理に対応するフレームの性質を特徴づけられることが分かっている(Goldblatt-Thomasonの定理)。
様相論理の間の関係
ここでは、2つの論理$\mathbf{A}$と$\mathbf{B}$の大小関係を比べることを考える。より直観的に、$\mathbf{A}\subsetneq\mathbf{B}$の場合に「$\mathbf{B}$の方が$\mathbf{A}$よりも強い」と言うこととする。このような強弱関係として、様々なものが知られている。
各様相論理の間に、以下のキューブ状の図で表された関係が成り立つ。ただし、$\mathbf{A}\to\mathbf{B}$の矢印で$\mathbf{A}\subsetneq\mathbf{B}$を表す。
$\mathbf{KT}$が$\mathbf{KD}$より強いことのみ示す。まず、$\mathbf{KT}$が$\mathbf{KD}$よりも弱くないこと(i.e., $\mathbf{KT}\supe\mathbf{KD}$)を示す。$\vDash_\mathbf{KD}\varphi$を仮定すると、フレームと公理の対応関係より、任意の継続的なフレーム$\F$において$\vDash^\F\varphi$である。ここで、反射的なフレームは継続的でもあるから、任意の反射的なフレーム$\F$において$\vDash^\F\varphi$となる。再びフレームと公理の対応関係より、$\vDash_\mathbf{KT}\varphi$が言える。
次に、$\mathbf{KT}$に含まれるが$\mathbf{KD}$には含まれない論理式の存在を示す。ある$p\in\PV$について(任意でよい)、$\Box p\to p$がそのような論理式であることを示そう。$\vDash_\mathbf{KT}\Box p\to p$は自明。$\nvDash_\mathbf{KD}\Box p\to p$を示すために、以下で定義されるモデル$\M=\tuple{W,R,(v_w)_{w\in W}}$を考える。
- $W=\qty{w_0,w_1}$
- $R=\qty{\tuple{w_0,w_1},\tuple{w_1,w_1}}$
- $v_{w_0}(p)=0, w_{w_1}(p)=1$ (それ以外の引数の場合、値は任意でよい)
このとき、$w_0\vDash\Box p$だが$w_0\nvDash p$なので、$w_0\nvDash\Box p\to p$である。このとき$\tuple{W,R}$は継続的であり、このフレーム上で$\Box p\to p$は妥当ではないので、フレームと公理の対応関係より、$\nvDash_\mathbf{KD}\Box p\to p$となる。
また、特に論理$\mathbf{S5}~(=\mathbf{KT5})$は様々な論理と等しくなる。
$\mathbf{S5}$は以下に挙げる論理全てと等しい。
- $\mathbf{S5}$を拡張した論理: $\mathbf{KTB5},\mathbf{KT45},\mathbf{KT4B5}$
- 公理(T)を使わない論理: $\mathbf{KDB5},\mathbf{KD4B5}$
- 公理(5)を使わない論理: $\mathbf{KT4B}$
- 公理(T),(5)を使わない論理: $\mathbf{KD4B}$
- 普遍的なフレームと対応する論理: $\qty{\varphi\in\MFml\mid\Forall\F:\text{普遍的}.{}\vDash^\F\varphi}$
(5)のみ示す。以下では、普遍的なフレームと対応する論理のことを、$\mathbf{KU}$と呼ぶこととしよう。まず、普遍的なフレームは反射的かつユークリッド的なので、$\mathbf{S5}\sube\mathbf{KU}$は明らかである。
次に、$\mathbf{KU}\sube\mathbf{S5}$、すなわち、「任意の普遍的なフレーム$\F$で$\vDash^\F\varphi$ならば、$\vDash_\mathbf{S5}\varphi$」となることを示そう。ここでは対偶を示す。そのために、まず$\nvDash_\mathbf{S5}\varphi$を仮定する。(3)の結果を利用すると、$\nvDash_\mathbf{KT4B}\varphi$を得る。すなわち、あるモデル$\M=\tuple{W,R,(v_w)_{w\in W}}$と状態$w_0\in W$が存在して、以下が成り立つ。
- $\tuple{W,R}$は反射的・推移的・対称的 (i.e., $R$は$W$上の同値関係)
- $w_0\nvDash\varphi$
証明を続ける前に、直観的な説明をする。目下の目標は、$\M$を基に普遍的なフレームから成る反例モデルを構成することである。そのために、ここではモデル$\M$全体を$w_0$と($R$に関して)同値な元に制限する。すると、論理式の真偽を保存したまま、普遍的なフレームを得ることができる(下図参照)。
以下のようにモデル$\M'=\tuple{W',R',(v'_w)_{w\in W'}}$を定義する。ただし、$[w]$で$w$を代表元とする同値類を表す。
- $W'=[w_0]$
- $R'=W'\times W'$ (よって$\tuple{W',R'}$は普遍的なフレームである)
- 各$w\in W'(\sube W)$に対して、$v'_w(p) = v_w(p)$
次に、以下の主張が成り立つことを示す。
証明は論理式の構造に関する帰納法による。
- $\psi\equiv p\in\PV$の場合: 付値の定義より自明。
- $\psi\equiv\lnot\theta$の場合 ($\to$についても同様)$$ \begin{align*} \M,w\vDash\lnot\theta &\iff \M,w\nvDash\theta\\[5pt] &\iff \M',w\nvDash\theta\quad(\because\text{帰納法の仮定})\\[5pt] &\iff \M',w\vDash\lnot\theta \end{align*} $$
- $\psi\equiv\Box\theta$の場合$$ \begin{align*} \M,w\vDash\Box\theta &\iff \Forall w'\in W. wRw'\implies \M,w'\vDash\theta\\[5pt] &\iff \Forall w'\in[w_0].\M,w'\vDash\theta\quad(\because~w\in[w_0])\\[5pt] &\iff \Forall w'\in W'.\M',w'\vDash\theta\quad(\because\text{帰納法の仮定})\\[5pt] &\iff \Forall w'\in W'.wR'w'\implies \M,w'\vDash\theta\quad(\because\text{$\tuple{W',R'}$は普遍的})\\[5pt] &\iff \M',w\vDash\Box\theta \end{align*} $$
以上と$\M,w_0\nvDash\varphi$より、$\M',w_0\nvDash\varphi$となり、所期の結果を得た。
直観主義論理との関係
今回は可能世界意味論を様相論理に対して用いたが、これは直観主義論理(intuitionistic logic)の意味論としても使われる(定義はこちら)。これら2つの論理体系は、以下のような翻訳により対応付けられる。
命題論理の論理式の集合から様相論理式の集合への関数$\tau$を、以下のように帰納的に定義する。
- $\tau(p)=\Box p$
- $\tau(\lnot\vphi)=\Box\lnot\tau(\vphi)$
- $\tau(\vphi\land\psi)=\tau(\vphi)\land\tau(\psi)$
- $\tau(\vphi\lor\psi)=\tau(\vphi)\lor\tau(\psi)$
- $\tau(\vphi\to\psi)=\Box(\tau(\vphi)\to\tau(\psi))$
また、論理式の集合$\Gamma$に対して、$\tau(\Gamma)\defeq\qty{\tau(\psi)\mid\psi\in\Gamma}$とする。
直観主義論理における妥当性の関係を$\vDash_\mathbf{Int}$で表すこととする。このとき、任意の$\Gamma\cup\qty{\vphi}\sube\Fml$について、
$(\Larr)$の向きについてのみ示す。対偶を示すために$\Gamma\nvDash_\Int\vphi$と仮定すると、以下を満たす(直観主義論理の)反例モデル$\M=\tuple{W,\leq,(v_w)_{w\in W}}$とその状態$w_0\in W$が存在する。
- $\Forall\psi\in\Gamma.w_0\vDash_\Int\psi$
- $w_0\nvDash_\Int\vphi$
このとき、$\leq$が擬順序(i.e., 反射的かつ推移的)であるから、$\M$は$\Sfour$のモデルでもある。このことに注意して、以下の主張の成立を示そう。
証明は論理式の構造に関する帰納法による。
- $\psi\equiv p\in\PV$の場合$$ \begin{align*} w\vDash_\Int p &\iff v_w(p)=1\\[5pt] &\iff w\vDash_\Sfour p\\[5pt] &\iff w\vDash_\Sfour\Box p \quad(\because~(\ast)) \end{align*} $$
- $(\ast)$の部分について、$(\Rarr)$の向きは$v_w$の遺伝性より、$(\Larr)$の向きは公理(T)より成立することが分かる。
- $\psi\equiv\lnot\theta$の場合 (他の論理結合子の場合も同様なので割愛)$$ \begin{align*} w\vDash_\Int\lnot\theta &\iff \Forall w'\geq w.w'\nvDash_\Int\theta\\[5pt] &\iff \Forall w'\geq w.w'\nvDash_\Sfour\tau(\theta)\quad(\because~\text{帰納法の仮定})\\[5pt] &\iff \Forall w'\geq w.w'\vDash_\Sfour\lnot\tau(\theta)\\[5pt] &\iff w\vDash_\Sfour\Box\lnot\tau(\theta) \end{align*} $$
この主張より、$\M$が$\tau(\Gamma)$から$\tau(\vphi)$への(様相論理の)反例モデルになっていることが示された。
なおこの結果は、超直観主義論理(superintuitionistic logic)、すなわち、直観主義論理に特定の公理を足した論理に対しても拡張できることが知られている。このように翻訳$\tau$により対応付けられる様相論理のことを、その超直観主義論理のmodal companionという。
追加する公理 | 論理の名前 | 対応する様相論理 |
---|---|---|
排中律: $\vphi\lor\lnot\vphi$ | 古典論理 | S5 |
弱い排中律: $\lnot\vphi\lor\lnot\lnot\vphi$ | 弱い排中律の論理 | S4.2 |
前線形性(prelinearity): $(\vphi\to\psi)\lor(\psi\to\vphi)$ | ゲーデル・ダメット論理 | S4.3 |
参考文献
- Chagrov, A., & Zakharyashchev, M. (1992). Modal companions of intermediate propositional logics. Studia Logica, 51, 49-82.
- Garson, J., "Modal Logic", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Spring 2023 Edition), Edward N. Zalta & Uri Nodelman (eds.).
- Rendsvig, R., and Symons. J., "Epistemic Logic", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Summer 2021 Edition), Edward N. Zalta (ed.).
- 大西琢朗. (2021). 『3ステップシリーズ3 論理学』. 昭和堂.
- 大西琢朗. (2021). 『2021年度 CAPE公開セミナー論理学上級I:様相論理、もう一歩先へ』. (講義資料).