直観主義論理: 可能世界意味論に関する完全性定理
公開日: 2023/05/09
このページでは、直観主義論理(intuitionistic logic)の可能世界意味論に関する完全性定理を扱う。ただし、対象は1階述語論理とし、証明論としては自然演繹を用いる(定義はこちら)。
完全性定理(completeness theorem) は、意味論的に妥当な推論が証明論的にも妥当であること(i.e., $\Gamma\vDash\vphi\implies\Gamma\vdash\vphi$)を主張する定理である。ここでは、対偶をとることによってこの定理を示す。すなわち、$\Gamma\nvdash\vphi$の仮定のもとで、$\Gamma$から$\vphi$への推論に対する反例モデルを構成する。
長い証明になるので、最初に大まかな流れを紹介する。
- カノニカル・モデルの導入: まず、構文的な対象(項や論理式)によって構成されたモデルを作る。このモデルの各状態$w$は、プライム性という良い性質を満たす(論理式の)集合$\Delta$を用いて定義することになる。
- ヘンキン拡大: プライム性に関するややテクニカルな補題が登場する。$\Gamma\nvdash\vphi$の場合、$\Gamma$を拡張して$\Gamma'\nvdash\vphi$を満たすプライムな$\Gamma'$が得られることを示す。
- 真理補題: カノニカル・モデルが証明論可能性を反映していることを示す。具体的には、カノニカル・モデルの状態$w$で$\psi$が真であることと、$w$に対応する論理式の集合$\Delta$に対して$\Delta\vdash\psi$であることが同値であることを示す。
- 以上から、カノニカル・モデルが$\Gamma$から$\vphi$への推論に対する反例モデルを与えることが言える。
カノニカル・モデル
プライム性
まず、今回の証明で重要になる プライム性 という性質を定義する1。なお以下では、言語$\L$の論理式の集合を$\Fml(\L)$で、項の集合を$\Term(\L)$で表す。
$\Gamma\sube\Fml(\L)$が($\L$に関して) プライムである(prime)$\defiff$以下の性質が成り立つ2。
- $\Gamma\vdash\vphi\lor\psi\implies\Gamma\vdash\vphi\Or\Gamma\vdash\psi$
- $\Gamma\vdash\exists x.\vphi\implies \Exists t\in\Term(\L).\Gamma\vdash \vphi[x:=t]$
ここでいったん非形式的な説明を行う。まず、プライムな論理式の集合は、可能世界意味論における状態のように振る舞う。 実際、定義よりプライムな$\Gamma$に対して以下が成り立ち、それぞれが意味論における充足関係の定義と似ていることが確認できる。
- $\Gamma\vdash\vphi\land\psi \iff \Gamma\vdash\vphi\And\Gamma\vdash\psi$
- cf. $w\vDash\vphi\land\psi \iff w\vDash\vphi\And w\vDash\psi$
- $\Gamma\vdash\vphi\lor\psi \iff \Gamma\vdash\vphi\Or\Gamma\vdash\psi$
- cf. $w\vDash\vphi\lor\psi \iff w\vDash\vphi\Or w\vDash\psi$
- $\Gamma\vdash\exists x.\vphi\iff\Exists t\in\Term(\L).\Gamma\vdash \vphi[x:=t]$
- cf. $w\vDash_g\exists x.\vphi \iff \Exists d\in D_w.w\vDash_g\vphi[x:=d]$
すなわち、以下のような粗い対応関係を考えると、論理式や項を使って、証明可能性を基に充足関係が決まるようなモデル が定義できそうである。
- 状態$w$: プライムな論理式の集合$\Delta~(\sube\Fml(\L))$
- 領域$D_w$: 項の集合$\Term(\L)$
このとき、領域が言語に依存して変わることに注意しよう。すなわち、ここでは 各状態ごとに言語$\L$が異なってもよい と想定している。
次に問題となるのが、状態間の到達可能性関係$\leq$である(これを定めなければ、充足関係の定義が他の状態を参照する含意$\to$と全称量化$\forall$が扱えない)。$\leq$には 遺伝性(heredity) という制約があり、これは非常にインフォーマルには以下のようなことを要求していた。
- 遺伝性: 遷移先の状態で、真である論理式は減らず、領域も小さくならない。
これを今回の状態・領域に置き換えて考えると、次のように表せそうである。
以下では、ここまでに概観した性質を反映するようなモデルとして、カノニカル・モデル(canonical model) というものを定義する。
定義
言語$\L$を定数記号の集合$C$で拡張して得られる言語を$\L\cup C$で表すこととする。
言語$\L$に関するカノニカル・モデル$\M_\L$を以下からなる組$\tuple{W,\leq,(\A_w)}$により定める。ただし、$\L$に含まれない定数記号の(互いに素な)集合族$(C_n)_{n\in\N}$であって$|C_n|=\max\qty{|\L|,\aleph_0}$を満たすものを1つとってあることとし、$\L_n\defeq \L\cup\bigcup_{0\leq k\leq n} C_k$とする。
- $W\defeq\qty{\tuple{\Delta,n}\mid \Delta\sube\Fml(\L_n),~\Delta~\text{は無矛盾で}\L_n\text{に関してプライム}}$
- $\tuple{\Delta,n}\leq\tuple{\Delta',n'}\defiff\Delta\sube\Delta'\And n\leq n'$
- $w=\tuple{\Delta,n}$に対する構造$\A_w$は以下のように定める。
- $|\A_w|=\Term(\L_n)$
- $k$変数関数記号$f$に対して、$f^{\A_w}=\lambda\tuple{t_1,\ldots,t_k}. ft_1\ldots t_k~(\in|\A_w|^k\to|\A_w|)$
- $k$変数述語記号$P$に対して、$P^{\A_w}\defeq\qty{\tuple{t_1,\ldots,t_k}\mid \Delta\vdash Pt_1\ldots t_k}~(\sube|\A_w|^k)$
まず、このカノニカル・モデルが遺伝性を満たすことを確認しよう。
状態$w=\tuple{\Delta,n},w'=\tuple{\Delta',n'}$を任意にとり$w\leq w'$を仮定すると、$n\leq n'$かつ$\Delta\sube\Delta'$である。このとき以下から$\A_w\sube\A_{w'}$が言える。
- $n\leq n'$より$\Term(\L_n)\sube\Term(\L_{n'})$、すなわち$|\A_w|\sube|\A_{w'}|$である。関数記号の解釈についても同様。
- $\Delta\sube\Delta'$より$\Delta\vdash\vphi^\implies\Delta'\vdash\vphi$なので、任意の述語記号$P$に対して$P^{\A_w}\sube P^{\A_{w'}}$。
以下では、カノニカル・モデルの任意の構造に対して変数割り当て$\id=\lambda x.x$(恒等関数)を与えることにする。このとき、以下の補題が成り立つ。
カノニカル・モデルの任意の状態$w=\tuple{\Delta,n}$に対して、
構造$\A_w$の定義より、項の構成に関する帰納法から$\intpr{t}_{\A_w,\id}=t$となる。よって、
ヘンキン拡大
完全性定理の証明の次のステップは、ヘンキン拡大 (Henkin expansion) である。この手法は、直観主義論理に限らない様々な述語論理の完全性定理の証明で有用である。
内容に入る前に、ヘンキン拡大を導入する動機を説明しよう。冒頭で述べた通り、完全性定理の最初の仮定は$\Gamma\nvdash\vphi$であった。次に証明論の性質を反映したモデルとしてカノニカル・モデルを定義したが、その状態はプライムな論理式の集合であった。ここで問題になるのは、$\Gamma$がプライムとは限らないということである。すなわち、以下のような状況になっているかもしれない。
- $\Gamma\vdash\psi\lor\theta$だが、$\Gamma\vdash\psi$も$\Gamma\vdash\theta$も成り立たない。
- $\Gamma\vdash\exists x.\psi$だが、$\Gamma\vdash\psi[x:=t]$となる項が存在しない。
ヘンキン拡大では、このようなプライム性を妨げるような論理式がなくなるように、$\Gamma$の中身を増やしていく。 例えば$\lor$の方については、$\psi$か$\theta$のどちらか適当な方を$\Gamma$に足してやれば良さそうである。$\exists$の場合に対処する方法はややトリッキーであり、もとの言語$\L$を拡張し、$\Gamma\vdash\psi[x:=c]$を満たすような定数$c$が新たに導入されるようにする。
言語$\L$、および$|C|=\max\qty{|\L|,\aleph_0}$を満たす定数記号の集合$C$を任意にとる。$\Gamma\cup\qty{\vphi}\sube\Fml(\L)$に対して$\Gamma\nvdash\vphi$となるとき、以下を満たす論理式の集合$\Gamma'\sube\Fml(\L\cup C)$が存在する。
- $\Gamma\sube\Gamma'$
- $\Gamma'\nvdash\vphi$
- $\Gamma'$は($\L\cup C$に関して)プライムである
まず言語$\L$が可算である場合を考える。このとき$\Fml(\L\cup C)$が可算無限集合となることに注意し、これに属する論理式を$\qty{\zeta_n\mid n\in\N}$と添字づける。
最初に、以下の主張を$n$に関する帰納法で示す。
$(\ast)$: $\Fml(\L\cup C)$に属する論理式の集合の増大列$(\Gamma_n)_{n\in\N}$であって、各$\Gamma_n$が以下の条件を満たすものが存在する。
- (a) $\Gamma_n\nvdash\vphi$
- (b) $\Gamma_n$には$C$に含まれる定数が有限個しか出現しない。
$\Gamma_0\defeq\Gamma~(\sube\Fml(\L))$とすると、仮定よりこれは2つの性質を満たす。
次に、条件(a),(b)を満たすような$\Gamma_n$の存在を仮定する。まず、以下の条件を考える。
$(\ast')$: ある$\Gamma_n\vdash\zeta_m$となる$\zeta_m\in\Fml(\L\cup C)$が存在する。
- (c) $\zeta_m\equiv\psi\lor\theta$の形になっていて、$\Gamma_n\nvdash\psi,~\Gamma_n\nvdash\theta$
- (d) $\zeta_m\equiv\exists x.\psi$の形になっていて、$\Forall c\in C.\Gamma_n\nvdash\psi[x:=c]$
排中律を用いて、$(\ast')$が成り立つか否かで場合分けする。
(case 1) $(\ast')$が成り立たない場合: $\Gamma_{n+1}\defeq\Gamma_n$とする(確かに(a),(b)を満たす)。
(case 2) $(\ast')$が成り立つ場合
$(\ast')$の2条件を満たす$\zeta_m$の中で、添字が最小であるようなものを$\zeta_\overline{m}$とする。$\zeta_\overline{m}$に対して(c)と(d)のどちらが成り立つかで場合分けする。
(case 2-1) (c)が成り立つ場合
このとき、$\Gamma_n,\psi\vdash\vphi$と$\Gamma_n,\theta\vdash\vphi$のどちらか一方は成り立たない。実際、両方が成り立つと仮定すると、$\Gamma_n\vdash\psi\lor\theta$より以下の導出が構成でき、帰納法の仮定($\Gamma_n\nvdash\vphi$)に矛盾する。
$\Gamma_n,\psi\nvdash\vphi$である場合、$\Gamma_{n+1}\defeq\Gamma_n\cup\qty{\psi}$と定義すれば、$\Gamma_{n+1}$は条件(a),(b)を満たす。もう一方の場合も同様。
(case 2-2) (d)が成り立つ場合
このとき、$\Gamma_n\cup\qty{\vphi}$に含まれない定数$c\in C$を1つとる(条件(b)よりそのような定数は存在する)。すると、$\Gamma_n,\psi[x:=c]\nvdash\vphi$である。これを示すために、$\Gamma_n,\psi[x:=c]\vdash\psi$を仮定しよう。いま$c$は$\Gamma\cup\qty{\vphi}$に登場しない定数なので、これを$\Gamma\cup\qty{\vphi}$に登場しない変数$y$に置換しても同様に導出は構成可能である。これと$\Gamma\vdash\exists x.\psi~(\equiv\exists y.\psi[x:=y])$より以下の導出が構成でき、帰納法の仮定($\Gamma_n\nvdash\vphi$)に矛盾する。
よって、$\Gamma_{n+1}\defeq\Gamma_n\cup\qty{\psi[x:=c]}$と定義すれば、$\Gamma_{n+1}$は条件(a),(b)を満たす。
以上で$(\ast)$が示された。ここで、$\Gamma'\defeq\bigcup_{n\in\N}\Gamma_n$と定義する。この$\Gamma'$が所期の条件を満たすことを確認しよう。
- $\Gamma_0=\Gamma$より、$\Gamma\sube\Gamma'$。
- $\Gamma'\vdash\vphi$を仮定すると、ある$n\in\N$に対して$\Gamma_n\vdash\vphi$となり、(a)に矛盾する。よって$\Gamma'\nvdash\vphi$。
- $\Gamma'$が$\L\cup C$に対してプライムであることは、以下のように示せる。
- $\Gamma'\vdash\psi\lor\theta$を仮定する。
- このとき、ある$n\in\N$に対して$\Gamma_n\vdash\psi\lor\theta$である。
- $\psi\lor\theta$の添字を$m$とする(i.e., $\zeta_m\equiv\psi\lor\theta$)。増大列$(\Gamma_n)_{n\in\N}$の構成方法から、最初から高々$m+1$ステップ目以内に$\psi\lor\theta$が(case 1)の対象になる。すなわち、ある$1\leq i\leq m+1$に対して$\Gamma_{n+i}\vdash\psi$または$\Gamma_{n+i}\vdash\theta$。
- よって、$\Gamma'\vdash\psi$または$\Gamma'\vdash\theta$が成り立つ。
- $\Gamma'\vdash\exists x.\psi$を仮定した場合も同様。
- $\Gamma'\vdash\psi\lor\theta$を仮定する。
最後に、言語$\L$が不可算濃度を持つ場合について、証明の概略のみ述べる。整列可能性定理を用いて、論理式の集合$\Fml(\L\cup C)$を整列順序により順序付ける。これに基づいて、$(\ast)$と同様の主張を超限帰納法により示せばよい。
真理補題
最後に示すのは 真理補題(Truth Lemma) である。これは、カノニカル・モデルの各状態で論理式が真であること$\tuple{\Delta,n}\vDash_\id\vphi$がその証明可能性$\Delta\vdash\vphi$と同値であることを主張する補題である。
基本的にはプライム性により素直に証明が進むが、充足関係が他の状態を参照する場合に注意が必要である。
任意の$n\in\N$と論理式$\psi\in\Fml(\L_n)$に対して、以下が成り立つ: $k\geq n$を満たす$\M_\L$の任意の状態$\tuple{\Delta,k}$に対して3、
$n$を任意にとり、$\psi$の構成に関する帰納法で示す。状態$\tuple{\Delta,C_k}$($k\geq n$)を任意にとる。
- $\psi\equiv Pt_1\ldots t_n$(原子論理式)の場合: 構造・割り当ての定義より明らか。
- $\vphi\equiv\top$の場合: $(\top I)$より$\Delta\vdash\top$なので成立。
- $\psi\equiv\bot$の場合: $\M_\L$の定義より$\Delta$は無矛盾なので成立。
- $\psi\equiv\theta\land\zeta$の場合$$ \begin{align*} \tuple{\Delta,k}\vDash_\id \theta\land\zeta \iff& \tuple{\Delta,k}\vDash_\id \theta\And\tuple{\Delta,k}\vDash_\id \zeta\\[5pt] \iff& \Delta\vdash\theta\And\Delta\vdash\zeta\quad(\because~\text{帰納法の仮定})\\[5pt] \iff& \Delta\vdash\theta\land\zeta\quad(\because~(\land I),(\land E)) \end{align*} $$
- $\psi\equiv\theta\lor\zeta$の場合$$ \begin{align*} \tuple{\Delta,k}\vDash_\id \theta\lor\zeta \iff& \tuple{\Delta,k}\vDash_\id \theta\Or\tuple{\Delta,k}\vDash_\id \zeta\\[5pt] \iff& \Delta\vdash\theta\Or\Delta\vdash\zeta\quad(\because~\text{帰納法の仮定})\\[5pt] \iff& \Delta\vdash\theta\lor\zeta\quad(\because~(\lor I),\text{プライム性}) \end{align*} $$
- $\psi\equiv\exists x.\theta$の場合$$ \begin{align*} \tuple{\Delta,k}\vDash_\id \exists x.\theta \iff& \Exists t\in\Term(\L_k).\tuple{\Delta,k}\vDash_{\id[x\mapsto t]}\theta \\[5pt] \iff& \Exists t\in\Term(\L_k).\tuple{\Delta,k}\vDash_\id\theta[x:=t]\quad(\because~\text{割り当てに関する補題})\\[5pt] \iff& \Exists t\in\Term(\L_k).\Delta\vdash\theta[x:=t]\quad(\because~\text{帰納法の仮定})\\[5pt] \iff& \Delta\vdash\exists x.\theta\quad(\because~(\exists I),\text{プライム性}) \end{align*} $$
- $\psi\equiv\theta\to\zeta$の場合
- $(\Rarr)$: 対偶を示すために、$\Delta\nvdash\theta\to\zeta$を仮定する。
- $({\to}I)$(の対偶)より$\Delta,\theta\nvdash\zeta$であるから、ヘンキン拡張により、$\Delta'\supe\Delta\cup\qty{\theta}$と$\Delta'\nvdash\zeta$を満たすプライムな$\Delta'\sube\Fml(\L_{k+1})$が得られる。このとき、$\theta\in\Delta'$より$\Delta'\vdash\theta$である。
- よって帰納法の仮定から、$\tuple{\Delta',k+1}\vDash_\id\theta$かつ$\tuple{\Delta',k+1}\nvDash_\id\zeta$が言える4。
- 以上と$\tuple{\Delta',k+1}\geq\tuple{\Delta,k}$より、充足関係の定義から$\tuple{\Delta,k}\nvDash_\id\theta\to\zeta$。
- $(\Larr)$: $\Delta\vdash\theta\to\zeta$を仮定する。
- 状態$\tuple{\Delta',\ell}(\geq\tuple{\Delta,k})$を任意に取り、$\tuple{\Delta',\ell}\vDash_\id\theta$を仮定する。
- このとき帰納法の仮定より$\Delta'\vdash\theta$。さらに$\Delta'\supe\Delta$より$\Delta'\vdash\theta\to\zeta$なので、$({\to}E)$より$\Delta'\vdash\zeta$となり、再び帰納法の仮定より$\tuple{\Delta',\ell}\vDash_\id\zeta$となる。
- 以上より、充足関係の定義から$\tuple{\Delta,k}\vDash_\id\theta\to\zeta$。
- $(\Rarr)$: 対偶を示すために、$\Delta\nvdash\theta\to\zeta$を仮定する。
- $\psi\equiv\forall x.\theta$の場合
- $(\Rarr)$: 対偶を示すために、$\Delta\nvdash\forall x.\theta$を仮定する。
- $c\in C_{k+1}$を1つとる(任意でよい)。定義より$c\notin\Term(\L_{k})$である。
- まず$\Delta\nvdash\theta[x:=c]$である。実際、$\Delta\vdash\theta[x:=c]$と仮定すると、$c$は$\Delta$に出現しないので$\Delta$に出現しない変数$y$に置換でき$\Delta\vdash\theta[x:=y]$となるが、これは$(\forall I)$から$\Delta\vdash\forall x.\theta$を導き矛盾する。
- このときヘンキン拡張により、$\Delta'\supe\Delta$と$\Delta'\nvdash\theta[x:=c]$を満たすプライムな$\Delta'\sube\Fml(\L_{k+2})$が得られる。帰納法の仮定より、$\tuple{\Delta',k+2}\nvDash_\id\theta[x:=c]$が言えて、さらに割り当てに関する補題から$\tuple{\Delta',C_{k+2}}\nvDash_{\id[x\mapsto c]}\theta$。
- 以上と$\tuple{\Delta',C_{k+2}}\geq\tuple{\Delta,C_k},~c\in\Term(\L_{k+2})$より、充足関係の定義から$\tuple{\Delta,C_k}\nvDash_\id\forall x.\theta$。
- $(\Larr)$: $\Delta\vdash\forall x.\theta$を仮定する
- 状態$\tuple{\Delta',\ell}(\geq\tuple{\Delta,k})$および$t\in\Term(\L_\ell)$を任意にとる。
- $\Delta'\supe\Delta$より$\Delta'\vdash\forall x.\theta$なので、$(\forall E)$より$\Delta'\vdash\theta[x:=t]$となる。帰納法の仮定より$\tuple{\Delta',\ell}\vDash_\id\theta[x:=t]$である。これと割り当てに関する補題より$\tuple{\Delta',\ell}\vDash_{\id[x\mapsto t]}\theta$。
- 以上より、充足関係の定義から$\tuple{\Delta,k}\vDash_\id\forall x.\theta$。
- $(\Rarr)$: 対偶を示すために、$\Delta\nvdash\forall x.\theta$を仮定する。
以上を踏まえて、完全性定理を示そう。
$\Gamma\cup\qty{\vphi}\sube\Fml(\L)$に対して、$\Gamma\vDash\vphi\implies\Gamma\vdash\vphi$
対偶を示す。$\Gamma\nvdash\vphi$を仮定すると、ヘンキン拡張により、$\Gamma'\supe\Gamma$と$\Gamma'\nvdash\vphi$を満たすプライムな$\Gamma'\sube\Fml(\L_0)$が得られる。このとき真理補題より、
- $\tuple{\Gamma',0}\vDash_\id\Gamma\quad(\because\Gamma'\supe\Gamma)$
- $\tuple{\Gamma',0}\nvDash_\id\vphi\quad(\because\Gamma'\nvdash\vphi)$
このようなモデル・状態・付値の存在により、$\Gamma\nvDash\vphi$が示された。
参考文献
- Enderton, H. B. (2000). A mathematical introduction to logic. Elsevier. (エンダートン, H. B. 訳 嘉田勝. (2020). 論理学への数学的手引き. 1月と7月.)
- Sørensen, M. H., & Urzyczyn, P. (2006). Lectures on the Curry-Howard isomorphism. Elsevier.
Footnotes
- ここではプライムな論理式の集合を考える。文献によっては、$\Gamma\vdash\vphi\iff\vphi\in\Gamma$を満たす集合$\Gamma$を 理論(theory) とし、プライムな「理論」を対象に議論を進めることもあるが、$\vdash$を使うか$\in$を使うかの違いで本質的な相違はない(はず)。 ↩
- 以下では前提$\Gamma$を集合として扱う。また、前提が無限集合である場合を考慮するため、$\vdash$の定義を「$\Gamma\vdash\vphi\defiff$ある$\Gamma$の有限部分集合$\Gamma'$が存在して$\Gamma'\vdash\vphi$」と拡張してあるものとする。 ↩
- 「任意の状態$\tuple{\Delta,n}$と任意の論理式$\psi$について...」と、状態を先に全称量化する形で定式化すると証明が回らない。というのも、含意$\to$と全称量化$\forall$の充足関係の定義が$w'\geq w$となる任意の状態$w'$を参照するからである。 ↩
- $\tuple{\Delta',k+1}$がカノニカル・モデルの状態であるためには$\Delta'$が無矛盾でなければならないが、このことは$\Gamma'\nvdash\vphi$から従う。実際、$\Gamma'\vdash\bot$とすると$(\bot E)$より$\Gamma'\vdash\vphi$となり矛盾する。これ以降にヘンキン拡張を適用する場合も同様なのでこの説明は割愛する。 ↩